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研究の紹介

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研究テーマ

目次 

​月の極
 ~水は有るのか?~
月の縦孔・溶岩チューブ
 ~月に見つかった未知なる領域~
クレータ年代学
 ~月表面の形成時期を調べる物差し~
月表面の渦巻き
 ~磁気異常とも関連する不思議な模様~
分光データ調査
 ~どんな鉱物がどう広がるのか?~
月探査データの解析

月探査データの解析

月の極

月の極

水は有るのか?~
月の極には決して太陽の光が直接当たらないマイナス200℃にもなる永久影と呼ばれる所が存在します。永久影には水が濃集しているとも考えられていました。SELENEに搭載された地形カメラでは、月南極点にあるシャックルトンクレータの中がクレータの内壁からの太陽散乱光で照らしているタイミングで撮像に成功し、そのクレータの底には水氷が露出していないとの結論を出しています。なお、今世紀になってアポロ試料に水が見つかっています。月の中低緯度の月面のある程度広い範囲には、極の最濃集域の数分の1程度あることも分かっています。更に、中緯度に降りた嫦娥5号のサンプルからも、水が見つかりました。今後、月の中低緯度での水の調査が大変重要です。
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図:SELENE搭載地形カメラが捉えた月南極シャックルトンクレータの底の様子
月の縦孔/溶岩チューブ

 

月の縦孔・溶岩チューブ

~月に見つかった未知なる領域~
SELENE搭載地形カメラによって、月に直径50mを越える巨大な縦孔が発見されました。この縦孔は地下の溶岩チューブに空いた「天窓」とも考えられています。実は、このような縦孔は火星にも発見されています。月・火星の縦孔、そして溶岩チューブに関して、地質学、宇宙プラズマ物理学、生命科学、、と多くの研究課題が提示されているとともに、将来の基地候補としての有用性も指摘されています。様々な視点から月・惑星の縦孔、溶岩チューブの研究を進めています。
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図:月表側嵐の大洋の中、マリウスヒルに見つかった月の縦孔(直径約50m)

 

【関連記事】
UZUME計画ホームページ

UZUME計画動画(クレッセント社)

ISECGの探査ロードマップ​補遺(2022年)

ISECG(アメリカが主導する、各国宇宙機関の有識者が参加する団体)の宇宙探査のロードマップ補遺に、溶岩チューブ探査が探査候補地点として記載(p33 4-b)。

中国の月溶岩チューブ基地構想(2021年)

中国航天局が、国際月研究基地構想書の中で、月面通信基地建設に続いて、月地下の溶岩チューブに基地建設を目指すことを発表(p10)。

中国が基地建設で目指す基地建設候補地(2021年)

中国−ロシアは、共同月基地建設場所として、マリウス丘(Marius Hills)を候補と発表。(SELENEは、マリウス丘に地下へとつながる縦孔を発見している。)

クレーター年代学

 

クレータ年代学

~月表面の形成時期を調べる物差し~
クレータの多い少ないでその地域の時代を推定する手法をクレータ年代学といいます。SELENE搭載地形カメラによって、数10m~数100mのクレータも高い精度で計測できるようになり、これまで以上に多くの地域で年代が推定されるようになってきています。今後、多くの地域で再測定が必要であると同時に、新たに分かった形成年代から月の進化史を構築し直すことも今後の課題です。また、最近新たな年代推定のモデルも提案されてきており、クレータ年代学が再び大きく発展する時期に入りつつあります。右図の領域では、クレータのサイズにより二つの年代が出てくることがわかります。そのため、この領域は少なくとも二段階の溶岩噴出が有ったことが解明されました。
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図:マリウスヒルに見つかった孔の近傍の領域のクレータカウンティング結果(カウンティング : 諸田博士)
月表面の渦巻き

 

月表面の渦巻き

~磁気異常とも関連する不思議な模様~
月の上に、不思議な渦巻き模様が見つかっています。この模様は一体何なのか?この模様の有るところの多くには磁気異常が見られ、それが、この模様の成因を解明するヒントになるのかもしれません。地形、地質、鉱物のデータからこの模様の特徴を解明し、また磁気データ、地下サウンダーデータともあわせ、この模様の謎に迫ります。
アポロ時代から右図のような模様の場所には磁気異常があることが知られています。高解像度地形カメラデータで調べても、模様の白いところと黒いところには、さほど大きな差異があるようには見られません。
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図:嵐の大洋にある不思議な渦巻き模様、ライナーガンマ
分光データ調査

 

分光データ調査

~どんな鉱物がどう広がるのか?~

 

スペクトルプロファイラによって得られている可視~近赤外領域の連続スペクトルから、鉱物の同定が行えます。どんな鉱物がどこにどう広がるのか?鉱物の分布形態を地形カメラ、マルチバンドイメージャ、或いは地下レーダサウンダーデータとも合わせて解析することで、様々な月の地域の物資的特徴を調べ上げ、月の進化に迫ります。様々な様相を見せる月の火山。地下の情報が現れる大きなクレータの底や中央丘。奇妙にも、地形の特徴とは全く関係ないところに見られる物質群。分光データによって新たに調べなければならない課題が山積しています。

右図の色の違いは鉱物あるいは粒子サイズの違いなどを示しています。スペクトルプロファイラデータの全球的な調査で、マントル物質と考えられているカンラン石の月表面における分布が、初めて分かりました。
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図:Nature Geoscience誌(2010)表紙
スペクトルプロファイラデータのバンド特徴を抽出して作った2次元データ
月以外の天体探査データ解析
氷衛星のPit構造
りゅうぐう 火星衛星のpit構造

​月以外の天体探査データ解析

欧州宇宙機関(ESA)とJAXAが共同で進めている木星氷衛星探査計画「JUICE(Jupiter ICy Moon Exploration)」に搭載の可視域分光カメラJANUS(Jovis Amorum ac Natorum Undique Scrutator)の日本チームでは主任責任者、また、始源的小惑星「りゅうぐう」のリモートセンシング探査ならびにサンプリターンに成功した「はやぶさ2」では、統合サイエンスメンバー、可視域分光カメラOptical Navigation Camera(ONC)の日本チームとして参加。更に、火星衛星サンプルリターンを目指す「Mars Moons Exploration (MMX)」にも、科学メンバーとして春山が参加しています。これまでに取られたデータの解析などを通して、研究室では新しいデータの解析に備えようとしています。解析テーマとしては様々なことが考えられますが、例えば以下のような課題に取り組もうとしています。

​氷衛星のpit構造

木星氷衛星探査計画JUICEは、2022年に打上げられ、2029年に木星系に到達し、特に木星の氷衛星であるガニメデを主に詳細観測しようとするものです。春山は、JUICE搭載カメラJANUSの科学チームに所属し、欧米の研究者とともに機器ハードウェア・運用処理解析ソフトウェアの開発に携わっています。木星のガニメデ、エウロパ、カリストといった衛星は、厚く氷で覆われていますが、その内部には海洋が存在すると考えられています。実際、エウロパからは水の噴出も認められています。土星の衛星エンケラドゥスにも同様に内部海洋があると考えられています。こうした内部海洋に、生命が誕生しているのではないか、と予想する人もいます。JANUSの観測で、木星氷衛星はどのような進化を遂げ、生命誕生につながったのか、あるいは実際生命はいるのか、といった謎に迫ろうとしています。地下の内海と表面を結ぶ「道」があり、それが表面に「孔」として現れている可能性があります。実際エウロパには奇妙な孔があったりします。この茶色の斑点(Freckle/そばかす)は、各々差し渡し10km程度になります。JUICE観測の準備を兼ねて、こうした氷衛星の孔構造を過去に行われたボエジャーやガリレオ探査機のデータで調べようとしています。
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図: エウロパの茶色の斑点 (画像;NASA/JPL)

りゅうぐう・火星衛星のpit構造

はやぶさ2の探査対象天体である「りゅうぐう」には、揮発性物質が多く取り込まれたと考えられています。小天体の揮発性物質の多寡を知ることは、それら小天体の進化の解明のみならず、我々の太陽系の進化の解明に、非常に重要な手がかりを与えることでしょう。小天体の進化過程で、揮発性物質は移動し地下のある部分に集中して溜まっていた可能性があります。こうした溜まり場所から揮発性物質が何かしらのきっかけで表面へ出てきて、表面に孔あるいは陥没地形(pit)を形成したかもしれません。実際、小惑星ヴェスタや、火星衛星フォボスにはすでに、陥没地形pitが見つかっていて、これら小天体に揮発性物質がかなり取り込まれていただろうと考える研究者もいます。「りゅうぐう」にはpitがあるのか、それらはどのようなことを語るのか、小惑星ヴェスタやセレス、あるいは火星衛星であるフォボスやダイモスのpit構造などとの比較も通して、研究を進めていこうとしています。
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図:NASA 小惑星ヴェスタの陥没地形(画像;NASA)
月惑星探査機器開発

月惑星探査機器開発

月探査SELENEでは春山は、地形カメラ、マルチバンドイメージャ、スペクトルプロファイラの三つの機器を開発担当しました。それら三つはそれぞれに驚くべきデータを私たちにもたらしてくれました。月惑星探査の機器の開発には、多くの困難が待ち受けています。宇宙に行ってしまったら、もう修理できません。開発は慎重にも慎重を期さねばなりません。そしてまた、一つの月惑星探査ミッションを成し遂げるには長い年月がかかります。とてもハイリスクです。しかし、自分が手塩にかけて開発した機器から送られてきたデータに、人類の誰もいまだかつて見たこともないモノを見る。そのときの興奮はこのリスクを補って余りあります。これこそ月惑星探査機器の開発に最前線で臨むことの醍醐味です。機器開発に取り組むことは未来を拓きます。
将来の観測機器

将来の観測機器

ミッション機器の開発は、そう簡単ではなく、あれもやりたいこれも、、というわけにはいきません。しかし、これからもSELENEでの光学機器開発経験を活かし、新たな光学機器の開発に取り組んでいきたいと思っています。また、生命探査に関わるミッション機器も一つのテーマと考えています。更に、月に見つかった縦孔の中へ降りる技術、或いは、溶岩チューブの中を探検していく技術の開発にも取り組んでいく予定です。
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図:月の縦孔探査、地下基地イメージ
地下探査レーダ

地下探査レーダ

SELENEには、LRSという地下探査レーダが積まれていました。LRSは地下数kmの深さの構造を調べることに成功しています。春山は、それとは独立に、以前より、LRSが対象とした深さより浅いところを対象とする地下探査レーダの開発に関わっています。一つの目標は月の地下数10mの深さに広がると思われる溶岩チューブの確認です。富士山の麓で、地下探査レーダで、溶岩チューブの検知の実験を行ったり(右図)してきました。地下探査レーダは、更に小天体の内部構造を調べるのに役立つでしょう。これからの月惑星探査の重要なミッション機器となると思われます。
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写真 富士山の麓において地下探査レーダをつかった溶岩チューブの検知実験
打上で開発は終わり...ではない
打上で開発は終わり...ではない
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ミッション機器の開発は、ロケットによって衛星が打ち上げられた段階で終わり、、、ではありません。機器の運用、そして、取れたデータを科学的な解析に正しく使えるようにするための作業(校正・補正)、そして、自分のみならず、国内外の研究者が使いやすい形の「プロダクト」を作っていくことが、開発に携わった者の使命です。SELENEは2009年6月に月へと衝突し、その観測を終えましたが、残されたデータは膨大です。それらの校正・補正の質を上げることが、重要な研究課題です。
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